東京都内にある住宅型有料老人ホームが、2026年8月から利用料を従来の約3倍に引き上げました。
月額10万円だった利用料は、家賃18万円と管理費12万円を合わせた月額30万円に変更。さらに、
これまで無料だった食費も、1日当たり2,160円が必要になったとされています。
末期がんや難病を抱える人が生活する施設で起きた突然の大幅値上げ。入居者や家族、介護関係
者からは不安と疑問の声が上がっています。
💴月10万円から30万円へ突然の大幅値上げ
施設から値上げの通知が届いたのは、実施のおよそ3か月前に当たる2026年5月でした。
これまで月10万円を支払っていた入居者の場合、8月からは次のような負担になります。
家賃:月額18万円
管理費:月額12万円
食費:1日2,160円
利用料合計:月額30万円+食費
食費を30日分として計算すると、1か月約6万4,800円です。介護・医療保険の自己負担などを除
いても、毎月約36万円以上が必要になる可能性があります。
年額に換算すると、利用料と食費だけで約438万円です。
年金を中心に生活している高齢者や、長期間の療養を続ける人にとって、簡単に支払える金額で
はありません。
😟簡単に別の施設へ移れない入居者
一般の商品やサービスなら、価格が高くなったときに利用をやめたり、安い会社へ変更したり
できます。
しかし、老人ホームでは同じようにはいきません。
この施設には、末期がんや難病などによって移動が難しい人も入居しています。新しい受け入れ
先を探し、医療・看護体制を確認したうえで転居するには、時間と大きな負担がかかります。
体調によっては、移動そのものが命に関わる場合もあります。
そのため、わずかな猶予期間で利用料を3倍にする対応に対し、入居者を担当していたケアマ
ネジャーからは厳しい批判が出ています。
🏢運営会社「開業当初の料金に戻した」
運営会社の社長は、今回の値上げについて「7年前の開業時に設定していた料金へ戻した」と
いう趣旨の説明をしています。
開業後、同業他社との入居者獲得競争が激しくなり、利用料の値下げを繰り返してきたといい
ます。
背景には、次のような経営環境の変化があります。
電気代やガス代など光熱費の上昇
食材料費や医療用品の値上がり
看護師や介護職員の人件費増加
同業者との低価格競争
診療報酬改定による収入減少
運営会社側は、これまでの価格競争によって料金が必要以上に低くなっていたと主張しています。
確かに、24時間体制で看護師などを配置する施設には、多額の運営費がかかります。しかし、
経営上の事情があるとしても、入居者が簡単に退去できない状況での3倍値上げが妥当なのかは
、慎重に検討されなければなりません。
🩺「ホスピス型住宅」とは
今回問題になった施設は、住宅型有料老人ホームに訪問看護・訪問介護事業所を併設した
「ホスピス型住宅」と呼ばれる施設です。
主に次のような人を受け入れています。
末期がんの患者
難病を抱える患者
退院後も医療的な管理が必要な人
自宅での療養が難しい人
人生の最終段階を穏やかに過ごしたい人
病院から退院を求められても、自宅では家族が十分な介護や医療対応をできない場合があります。
ホスピス型住宅は、そのような患者と家族を支える大切な受け皿として、全国で急速に増えて
きました。
⚠️過剰な訪問看護と診療報酬の問題
一方、ホスピス型住宅をめぐっては、必要以上に訪問看護を行い、医療保険から診療報酬を得
ているのではないかという問題も指摘されてきました。
末期がんや難病の患者には、一般の患者より多くの訪問看護を医療保険で受けられる仕組みがあ
ります。
本来は、重い病気を抱える患者を支えるための制度です。しかし、その仕組みを利用して訪問
看護の回数を増やし、診療報酬による収益を確保する事業者が存在するとの指摘があります。
過去には、大手事業者による不適切な看護が外部調査で明らかになり、関係する診療報酬の請
求額が約28億円と試算された事例もありました。
🔄なぜ低価格競争が起きたのか
ホスピス型住宅の一部では、家賃や管理費を低く設定して入居者を集め、その後に訪問看護な
どの診療報酬で利益を得るビジネスモデルが広がったとみられています。
つまり、入居者が支払う利用料だけで施設を運営するのではなく、公的な医療保険から得られる
収入を前提として、安い料金を設定していた可能性があるのです。
この仕組みが広がれば、施設同士の低価格競争が激しくなります。
一見すると安く入居できるため、患者や家族にとって良いことのように見えます。しかし、公的
保険への過度な依存によって成り立っている場合、制度が変更されれば経営が急激に悪化します。
その結果、今回のような大幅値上げが入居者に押しつけられる恐れがあります。
📉国による診療報酬改定も値上げの一因
国は2026年6月、同じ建物で生活する複数の患者に訪問看護を行った場合の診療報酬を見直し
ました。
集合住宅では、看護師が効率よく複数の患者を訪問できます。そのため、戸建て住宅を一軒ず
つ訪問する場合と同じ報酬を支払うことが適切なのか、以前から議論されていました。
今回値上げを実施した運営会社は、不適切な診療報酬の請求はしていないと説明しています。
その一方で、診療報酬改定によって今後の収入減少が予想されることも、値上げの理由の一つに挙
げています。
厚生労働省には2026年6月ごろから、複数の住宅型有料老人ホームの値上げに関する相談が寄せ
られているといいます。
今回の問題は、一つの施設だけで終わらず、全国へ広がる可能性があります。
👴高齢者の住まいを市場競争だけに任せてよいのか
老人ホームは、一般的な賃貸住宅やホテルとは異なります。
入居しているのは、病気や加齢によって生活上の支援が必要になった人たちです。特に終末期
の患者にとって、施設は単なる「住まい」ではなく、残された時間を過ごす生活と医療の場所です。
施設運営には適正な利益が必要です。物価や人件費が上昇すれば、一定の値上げが避けられない
場合もあるでしょう。
しかし、入居者が簡単に移動できないことを考えれば、大幅な料金変更には厳格なルールが
必要です。
例えば、次のような対策が求められます。
値上げ理由と経営状況の丁寧な説明
十分な事前通知期間の設定
値上げ幅に関する一定の基準
転居先を探すための公的支援
低所得者に対する負担軽減制度
診療報酬請求に対する監査の強化
入居契約や料金体系の透明化
📝まとめ|安心して最期を迎えられる仕組みを
都内の老人ホームで起きた月10万円から30万円への値上げは、単なる一企業の料金改定ではあ
りません。
背景には、ホスピス型住宅の急増、事業者間の低価格競争、診療報酬に依存した経営、物価・
人件費の上昇、そして国による制度改定があります。
しかし、そのしわ寄せを最も弱い立場にある入居者へ一度に負わせてよいのでしょうか。
病気や加齢によって介護が必要になることは、本人の努力不足でも自己責任でもありません。
長く生きれば、誰でも支えを必要とする時期が訪れます。
高齢者や終末期患者の住まいを、価格競争と事業者の経営判断だけに任せる社会では、安心し
て老いることはできません。
施設が継続して運営できる適正な報酬を確保すると同時に、入居者が突然住まいを失わない仕
組みを整える必要があります。
安心して老い、病気になっても必要な支援を受け、最期まで人間らしく暮らせる社会をつくる
こと。それは現在の高齢者だけでなく、これから高齢者になるすべての人に関わる課題です。

